舞台脚本 サンプル② ~ 学生もの(抜粋)

■登場人物
■秋庭 修哉(あきば・しゅうや)
19歳。デスメタルバンドのメインボーカルをやっている。
メタラーらしからぬこざっぱりした外見。
少しぶっきらぼうに見えるが、根は優しくて力持ち。

■早藤 雅雄(はやふじ・まさお)
19歳。修哉の一番近しい友人で、飄々とした性格。
いかにもメタラーのアンちゃんという感じのファッション
修哉とともに彼女がいない学生生活を満喫している。

■天田 千代子(あまだ・ちよこ)
19歳。修哉の幼稚園からの幼なじみ。
ちょっと男前な性格。喋り方も趣味もそんな感じ。
バリバリの体育会少女である。

■梅月 れい(うめつき・れい)
16歳。雅雄がアルバイトしている喫茶店のマスターの一人娘。
人見知りもせず、明るく話す。マスターの教育のたまものか、上品な敬語で話す。
「たまに油断して出る、タメ口がかわいい」とは、雅雄と修哉の統一見解。
可愛いものが好きで、料理好きという、実に女の子している性格である。

○S1 大学・学生ホール

SE チャイムの音

雅雄「修哉!」
修哉「おう、おつかれ」
雅雄「今日、どうするの?」
修哉「特になんもなし。雅雄は?」
雅雄「これからバイト」
修哉「毎日だな」
雅雄「一人辞めちゃってさ。まあ、稼げるウチに稼いでおこうかと」
雅雄「お、千代子(近づく千代子を見つけ)」
千代子「ういっす」
修哉「おはよー」
千代子「お早くないなー、今日終わりだし」

千代子、2人の前に立つ

千代子「ライブ、お疲れ様」
修哉「見に来てくれて、ありがとな」
雅雄「打ち上げ参加すれば良かったのに」
千代子「いいよー、なんか場違いじゃない?」
修哉「そんなことないだろ。結構いろんな人いるよ?」
千代子「だって、全然音楽とかやってないし。みんな格好すごいからさ、普通の格好だと浮くでしょ」
修哉「俺は普通だぞ」
雅雄「俺は、いついかなる時も格好から入る主義だ」
千代子「修哉のバンドって、ジャンルは何になるの? ロック?」
修哉「メロデス。メロディック・デスメタル」
雅雄「そこはヘビメタでいいんじゃないか?」
修哉「曲を書く人間として、メロディックな部分を大切にしていきたい」
千代子「ヘビメタってのとは違うの?」
修哉「メロデスはヘビメタの一種、だな」
千代子「あ、色々あるんだ?」
雅雄「まあ、例えば……一口に卵かけごはんって言っても『ご飯の上に、そのまま卵を割り落とす・別の容器で良く混ぜてからかける』とか『あの白いブヨっとした奴を綺麗に取り除かなきゃ嫌だ・そんなもん、チュルっと行けよ。細かいことは気にすんな!』とか、色々あるだろ? まあ、分かりやすく言うと――そんな感じ」
千代子「ゴメン、全ッ然わかんないんだけど」
修哉「あの『白いブヨっとした奴』は『カラザ』って言うらしいぞ」
雅雄「そうなのか?」
修哉「ああ、海原雄山が言ってた」
雅雄「雄山が!?」
千代子「え、誰……?」
雅雄「お、そろそろ行かなきゃ」
千代子「何? 早藤、バイト?」
雅雄「ああ。コーヒー飲みに来たお客様にメタル魂を注入する、簡単なお仕事だ」
千代子「どうしよう、この男」
修哉「図書館に本返しに行ってから、店に顔出すよ」
雅雄「うい、じゃぁな」
修哉「あとで」
千代子「頑張ってー」

雅雄、立ち去る。

千代子「図書館いくの? アタシも借りる本あるんだけど」
修哉「じゃあ一緒に行くか」
千代子「うん」

○S2 図書館

SE 場面転換

大学キャンパス内の図書館の前。

千代子「お待たせ!」
修哉「おう」
千代子「なに借りてたの? エッチな本?」
修哉「エロ本完備の学校の図書館って、どんなパラダイスだよ」
千代子「パラダイスなんだ」
修哉「ちなみに法律の専門書だ」
千代子「へえ、勉強してるんだ」
修哉「学生の本分は勉強だからな。いや、ずいぶん参考になった」
千代子「へえ、どんな本?」
修哉「……ナントカ訴訟法の、本?」
千代子「いや、アタシが聞いてるんだけど」
修哉「で、千代子は何借りたの?」
千代子「じゃっじゃーん♪(本を取り出す)」
修哉「……すいーつ?」
千代子「アンタ、今度誕生日じゃん?」
修哉「そうだけど?」
千代子「ケーキつくったげるよ」
修哉「え? 誕生日が俺の命日になるの?」
千代子「なんでだよ!? チョコケーキに死ぬ要素ないだろ!」
修哉「お前、料理できたっけ?」
千代子「何、その疑いの目は?」
修哉「だって、お前……サークルの合宿かなんかの時、スクランブルエッグ作るって言って、炒り卵になったりしたじゃないか」
千代子「……一緒でしょ?」
修哉「あんな水分飛び切ってパラッパラな奴を、俺はスクランブルエッグとは認めない」
千代子「食通だなあ、修哉」
修哉「……ホントに大丈夫か? 熱加えれば溶けるからって、チョコ溶かすときフライパンで炒めるなよ?」
千代子「大丈夫だって!」
修哉「そっか」
千代子「お湯に入れて、溶かすんでしょ?」
修哉「ホントに大丈夫か!?」

改札前で立ち止まる二人。

修哉「これから雅雄のバイトしてる喫茶店行くけど、行く?」
千代子「あ、行こうかな。でも、ちょっと材料とか見てからいくよ」
修哉「おう。じゃ、またあとで」
千代子「のちほどー」

千代子、立ち去る。
それを見送って、修哉は歩き出す。

○S3 喫茶店:あみん

雅雄がバイトしてる喫茶店『あみん』。
別段二丁目の交差点から17軒目でも、マスターが36歳独身でもない。ただ、かぼちゃパイは絶品とかなんとか……
奥さんが趣味ではじめたパン作りが近頃好評を博している。
そのせいか、喫茶店部分がパン売り場にどんどん侵食されていて、いつか『パン屋のイートインコーナー』になるんじゃないかと、マスターは戦々恐々。

修哉、そんな喫茶店あみんに到着。

SE カウベル

雅雄「へい、ラッシャイ!(威勢良く)」
修哉「魚屋か、ここは?」
雅雄「コーヒーベーカリーだけど?」
修哉「なら、コーヒーベーカリーっぽく出迎えてくれ」
雅雄「ボンジュール」
修哉「どんなイメージなんだよ?」
雅雄「じゃ、無難に。『いらっしゃいませ』」
修哉「はいどーも」
雅雄「では、ご注文をお伺いします」
修哉「座らせてくれよ、まずは!」
雅也「細かいなあ、修哉」
修哉「細かくはない(断言)」

席に着く修哉。お冷やを置く雅雄。

修哉「今日、マスターは?」
雅雄「買い出し中。俺が留守番だ」
修哉「大丈夫なのか?」
雅雄「ああ。もしテロリストの襲撃を受けた時には、俺が刺し違えてでも、この店を守ってみせる」
修哉「いや、そこまで大層な話じゃなくて。凝った料理とか注文されたらどうすんだ?」
雅雄「その時は――俺が刺し違えてでも、この店を守ってみせる」
修哉「いや、殺すなよ!? 謝れよ、むしろ!」
雅雄「ま、あとは歌の力でわかりあおうかと」
修哉「無理だろ」
雅雄「でも、歌は国境とか色々越えるよ?」
修哉「俺らの歌ってデスメタルだぞ? 『このハンマーをお前の頭に振り下ろすのさ、お前の脳がはみ出るまで』とか、そんな歌ばっかりだろ」
雅雄「それでわかり合えた相手とは、殺し合うしかないか」
修哉「まったくだ」

唐突にカウベルがからん、ころんと鳴る。

れい「あ。修哉さん、いらっしゃいませ!」
修哉「れいちゃん。おかえり」
れい「ただいまです」
雅雄「お帰りなせぇ、お嬢!(威勢良く)」
れい「雅雄さん、またそんな……(苦笑)」
修哉「どんなイメージなんだよ、お前の中でこの店は」
れい「お父さんがいけないんですかね、見た目怖いし」
修哉「いや、悪いのはコイツだから」
れい「音楽のおはなしをしていたんですか?」
雅雄「……違う話をしてた気もするけど、結局音楽の話になったような」
修哉「そもそも、なんの話をしてたんだっけかな……」
れい「ありますよね、そういうこと(笑)」
修哉「そうだ。マスターが留守なのに、凝った料理のオーダーが入ったらどうするんだって話をしてたんだよ」
れい「あー、ありそうですね」
雅雄「で、歌の力でお客さんと分かり合って……殺し合おうってことになったんだよ」
れい「なんでですか!?」
雅雄「わかり合った先にあるのは、命のやりとりかなと」
れい「それ、絶対わかりあえてないよね……そういえば、ライブ終わったんですか?」
修哉「うん、一昨日に」
れい「そっかー、見てみたかったですねえ」
雅雄「なんだ、言ってくれればチケット用意したのに」
れい「でも、ヘビメタってちょっと怖くて」
修哉「見た目はどうあれ、気の良い奴多いよ」
れい「修哉さんたちのバンドって、名前はなんて言うんですか?」
修哉「『秋庭修哉と東京ラプソディーズ』」
れい「……ヘビメタ、ですよね?」
修哉「あえて、昭和の歌謡グループっぽくしてみたんだ」
れい「なんでですか(苦笑)」
雅雄「大和魂とメタル魂の融合が、俺たちのジャスティスだから」
れい「うーん……(苦笑)名前からすると、修哉さんがリーダーなんですか?」
修哉「そう。リーダーという名の雑用係」
れい「ドラムスですよね? で、雅雄さんがヴォーカル」
雅雄「違う違う」
れい「あ、そうでしたっけ?」
雅雄「歌うことは歌うんだけど、ポジション的にはリード・タンバリン」
れい「……ヘビメタ、ですよね?」
雅雄「『デスヴォイスとタンバリンの調和と破壊』が俺の目指すゴールなんだ」
れい「ちょっとわかんないなあ(苦笑)」

SE カウベル

千代子「おー、パンとコーヒーのいい香り」
雅雄「へい、ラッシャイ!(威勢良く)」
千代子「……いいの、これ?(れいに)」
れい「よくはないです(苦笑) 千代子さん、こんにちは!」
千代子「オッス、れいちゃん」
雅雄「そういえば、修哉。注文は?」
修哉「コーヒー」
千代子「わたしも。ホットね」
雅雄「コーヒーって言っても、色々あるぞ。なんでも言ってくれ。コーヒーのいれ方は、マスターに調教されたからバッチリだ」
修哉「なんかいやらしいな、調教って言い方。『仕込まれた』とかで良いだろ」
雅雄「いや、その言い方もなかなかエッチだけど?」
千代子「やかましいわ」
雅雄「で、どのコーヒーにする? ブルマン? コナ? モカマタリ?」
修哉「ふつーのホットコーヒー」
れい「ブレンドですか?」
修哉「うん、それでいいや」
千代子「同じく」
雅雄「張り合いがないヤツらめ」
れい「でも、美味しいですよ」
雅雄「じゃあ、俺がいれてくるよ」
れい「あ、わたしやりますよ?」
雅雄「大丈夫大丈夫。マスターに調教されて、別人になった俺を見てくれ」
千代子「言い方よ」

笑いながら、雅雄はキッチンに消える。

修哉「れいちゃんのコーヒーがよかったなあ」
れい「今度はわたしがいれますね。おやつもサービスで」
千代子「そっか、料理得意なんだよね」
れい「料理は好きですけど、得意かどうかは……」
修哉「好きこそものの上手なれ、ってね。やっぱり、洋食が得意なの?」
れい「それこそ、好みになるんですけど。和食の方がレパートリーが多いかもです」
千代子「すごいなあ。じゃあ、お菓子作るときは和菓子?」
れい「和菓子は本当に簡単なのしか作れませんねえ……お菓子は洋風です。それこそケーキとか」
千代子「ケーキ!? 教えて!」
れい「え? 千代子さん、ケーキ作るんですか」
千代子「いや、そこのが今度誕生日だからさ。チョコレートケーキとか作ってみようかなって」
修哉「そこのって言うな」
れい「そうなんですね! 私、お料理とか作りましょうか?」
千代子「れいちゃんもケーキ作って! 私の場合、不測の事態で完成しないおそれが……」
修哉「予測の事態だろ」
千代子「だまれ、こわっぱ!」
修哉「こわっぱ!?」
れい「じゃあ、イチゴのショートケーキ作りますね」
千代子「よかったー! さっきスーパーに材料を見に行ったけど、何買っていいのかわかんなくて」
れい「あはは。わかります。迷いますよね」
千代子「ほんと、やったことないからさ。ケーキって粉混ぜるじゃない? あれ、何の粉?」
れい「そこからですか!?」

一拍の間
雅雄がコーヒーを運んでくる

雅雄「はい、お待ちどう!」
修哉「お、ありがと」
千代子「じゃあ、乾杯しようか」
修哉「コーヒーで!?」
雅雄「めでたければOKでしょ」
修哉「そもそも、何の乾杯?」
千代子「そりゃ、修哉のバースデー・イブでしょ」
修哉「こういうのにイブってあるの?」
れい「前祝いということで」
千代子「皆さま、カップをお持ちください」
れい「お誕生日イブ…」
修哉以外の3名「おめでとうございます!」

全員「かんぱーい!!」

――抜粋おわり