舞台脚本 サンプル① ~時代物(抜粋)

■登場人物

・徳川秀忠 江戸幕府2代将軍。父家康の興した江戸幕府の足場固めをした、隠れた名君。
・徳川家光 江戸幕府3代将軍。『二世権現』と自ら家康の生まれ変わりを称した、アグレッシブタイプの名君。
・徳川忠長 家光の弟で秀忠の次男。駿河遠江甲府55万石の大大名。官位から『駿河大納言』と称される。
・保科幸松 秀忠が侍女に手をつけて生まれた隠し子。兄弟たちと名乗りも許されぬまま、江戸から離れた信州高遠藩に養子に出された。

・先生 歴史教師。スパークする歴史バカである。
・生徒 歴史クラスの生徒。補習授業の常連。

●抜粋シナリオの補足あらすじ

江戸幕府2代将軍徳川秀忠。
彼には長男の家光、次男の忠長の他に隠し子の三男――幸松がいた。
幸松は嫉妬深い正室お江の方の追及をかわすため、江戸から遠く離れた信州・高遠藩に養子として送られることとなる。

そしてついに――長男家光に、バレる時がやってきたのだった……

■映像 江戸、目黒成就院

成就院住職より、幸松の事を聞かされた家光。
憤慨しながら江戸城へと馬で駆け戻っていった。
その様子をシミュレーションで眺める、先生と生徒たち。

生徒「……たいへんだー」
先生「たいへんですねえ。さて、今日は小春日和のいい陽気です。西の丸御殿では、秀忠がひなたぼっこしながらお茶をしています」
生徒「にげてー。にげてー」

SE うぐいす

秀忠、穏やかな笑顔で縁側から外を見る。

秀忠「のどかなる、良き日じゃのお(客席にむかって)」

一拍の間

家光「ちちうえーッ!?(絶叫)」

秀忠、口に含んだお茶を思いっきり噴き出す。
その後、盛大にせき込み涙目で家光を見る。

秀忠「な……なに?」
家光「只今――利勝を責め、口を割らせ申した」
秀忠「責め!? 何事ぞ、家光!?」

それには答えず、秀忠をじっとみる家光。

家光「父上」
秀忠「……なんじゃ?」
家光「幸松とは、何者でござりまするか?」

ぱた、と。
手にした茶碗を取り落とす秀忠。

秀忠「なぜ……知っておる?」
家光「将軍にわからぬことはございませぬ」
秀忠「そんなことないよ?」
家光「父上」
秀忠「はい」
家光「改めて問い申す――幸松は我が弟にござりまするな?」
秀忠「……そうじゃ。信州高遠藩、保科家嫡男の幸松は、まことワシの子じゃ」
家光「将軍のせがれが……将軍の弟が、3万石の小藩の養子とは……」
秀忠「3万石とはいえ城持ち大名じゃ……老中にもなれよう」
家光「高遠藩の石高がよくわからぬ理由で2万5千石から3万石になり。老中の条件が『5万石の大名』から『3万石の城持ち大名』に引き下げられたのには、そのようなわけがあったのですか?」
秀忠「……」
家光「無用な仕儀でしたな、父上」
秀忠「なんと?」
秀忠「幸松を江戸に呼び戻し、しかるべき家を継がせまする」
秀忠「待て、家光」
家光「なにゆえですか?」
秀忠「お江の……お江の心を騒がせたくはない」
家光「……」
秀忠「お江の容体は悪くなるばかり。もはや床上げはかなわぬだろう。せめて、心安らかに……」
家光「……相分かりました」
秀忠「すまぬ、家光」
家光「駿河の忠長にきつく口止めし、会わせまする」
秀忠「確かに……駿府ならば、お江の耳には入らぬが」
家光「伝えねばなりませぬ」
秀忠「伝える?」
家光「『将軍家は、決してそなたのことを忘れてはおらぬ』と。一刻も早く、幸松に――我が弟に伝えてやらねばなりませぬ!」
秀忠「……あいわかった。将軍の存分にせよ」
家光「は。では、これにて」
秀忠「家光」
家光「はい?」
秀忠「……たのんだぞ」
家光「心得ました」

生徒「みっちゃん、すごく親身になってますね」
先生「家光は子どものころ親元から離れて育てられました。弟が両親のもとでふたりの愛を一身に浴びて育つのを見て、こう思ったことでしょう」

家光「父上も母上も、わたしのことをお忘れになられたのですか……? 竹千代は、ここにおりまする!」

先生「同じお城の中でもこれだけ辛いのに、兄弟の誰もしらぬまま、遠く離れた信州高遠で暮らしている……家光にはとても見過ごせなかったのでしょう」
生徒「みっちゃん……」
先生「家光からの便りを受け取った忠長は、驚きながらも急いで表向きの理由をでっち上げ、駿府城に幸松を呼び出すこととなりました」

■映像 駿府城

駿府城、大広間。
上機嫌の忠長、緊張の極みと言った感じの幸松の挨拶を受けている。

幸松「拝謁の栄に浴し、恐悦至極でございます。大納言様の御前に侍りまするは、信州高遠藩、保科幸松でございます」
忠長「面をあげよ(上機嫌)……そなたの兄、忠長じゃ。よく来てくれたのぉ。疲れてはおらぬか?」
幸松「もったいないお言葉でございます。山育ちゆえ、脚は強うございます」
忠長「そんなにかしこまらずともよい、兄弟ではないか。もっと近う寄れ」
幸松「失礼いたします」
忠長「上様から急なしらせが来てな。驚いた。父上からは、まったく聞かされておらなんだからな」
幸松「おそれながら、大納言様よりこたびの報せが参った時には、家中《かちゅう》みなみな恐懼し……いったいどのようにいたせばよいのかわからず、右往左往いたしました」
忠長「はははは! 相身互いといったところじゃの。じゃが……知らぬこととはいえ、こは、明らかに将軍家の不始末。まずは、この忠長がお詫び申し上げる」
幸松「おもいもよらぬことでございます! それがしは信州高遠藩主 保科正光が息子。今後、父の跡を継ぐことがあれば、小大名ながらも将軍家のお役に立てますよう一心にご奉公いたすつもりでございます」
忠長「うむ……(脇に用意した衣装盆を差し出す)幸松、そなたにこれを与える」
幸松「ははぁ! ありがたき幸せにございま――こっ(驚きで絶句)」
忠長「はははは! いかがいたした?」
幸松「ご無礼を! なれど、この御章服には……葵の御紋がござりまする」
忠長「それはそうじゃ。我が祖父、神君 家康公の御遺品であるからな」
幸松「東照大権現さまの……! そのようなお品をいただくわけには!」
忠長「構わぬ。大権現さまはわしにとっても祖父じゃが、そなたにとっても祖父じゃ。兄弟と明らかになっておったならば、そなたにも形見分けがあったはず。そもそも他ならぬ弟に譲って、何を憚る」
幸松「さは、さりながら……」
忠長「それにな……わしは上様と――兄上とはなにかとソリが合わぬ。叱られてばかりじゃ。いずれは、この駿府も召し上げられてしまうかもしれぬ」
幸松「……」
忠長「そうなったとき、御遺品が誰とも知らぬものにわたる前に、我が弟に譲っておきたい」
幸松「そのような……」
忠長「あと、この刀は『守家』と申す銘刀でな。その名の通り、家を守ると言われておる。これもそなたに譲る。保科の家と……将軍家を守ってくれ」
幸松「もはや、言葉もござりませぬ。必ずやこのご恩を返すべく、精進いたしまする!」

生徒「コウくん、うれしそうですね!」
先生「ずっと待ちわびていたのかもしれませんね。将軍家が手を差し伸べてくれることを」
生徒「忠長くんも、なんだかうれしそうでしたね」
先生「ずっと弟ポジションだったのに、いきなりお兄ちゃんになりましたからね」
生徒「なるほどー」
先生「幸松もまだ完全な形とは行かなくとも、将軍家と繋がっていることを確かめることができ、これでひと段落つきました……と、言いたかったところですが」
生徒「また……なにか?」
先生「この後、改修したばかりの二条城へ後水尾天皇が来るということで、家光と秀忠は揃って京都に向かいます」

■映像 二条城

先生「天皇も無事に迎えることができて、ドタバタの5日間が終わったその日」
生徒「その日……?」
先生「お江の方が危篤になったという報せが届きます」
生徒「え!? ふたりが留守の時に?」
先生「秀忠は報せを受け取ったその日に江戸に向けて出発します。また、この報せは駿府の忠長にも届いていて、彼もすぐに出発しました」
生徒「どうなったんですか?」
先生「残念ながら――忠長が江戸に到着したのは、お江の方が亡くなった2時間後でした」
生徒「間に合わなかったんだ……2時間かあ」
先生「お江の葬儀は、忠長の指図で徳川家の菩提寺である芝増上寺にて行われました。忠長の仕切りは見事で、実に盛大な葬儀だったと伝えられています」
生徒「お母さん、最後に大好きだった忠長くんに送られて、きっと喜んでますよね」
先生「そうかもしれませんね。そして、秀忠は……最愛の妻を亡くし、しかも最期を看取ることもできなかったとすっかり塞ぎがちになってしまいます」
生徒「あぁ……つらいですね」
先生「老夫婦で妻を亡くすと、夫が急激に老け込んで元気をなくすというのはよく聞く話です。そうして、風邪をひいて療養中の秀忠のもとに、家光が見舞いに訪れました」

■映像 西の丸

床に臥せる秀忠を、家光が医師から受け取った薬を持って見舞う

家光「父上。お加減は如何でございますか?」
秀忠「今日もお江の夢を見た――呼ばれておるのではないかと思うてな」
家光「何を弱気を申されますか。さ、薬でございますぞ。熱いのでゆっくりとお飲みなされませ」
秀忠「おお、すまぬの。ところで、何か話があるとか?」
家光「そのことですが」
秀忠「ん?(薬湯を飲みながら)」
家光「父上の葬儀はどのようにいたしますか?」

秀忠、口に含んだ薬湯を思いっきり噴き出す。
その後、盛大にせき込み涙目で家光を見る。

秀忠「……わし、死ぬの?(自分を指さしながら)」
家光「まさか。こういうものは、元気な時に決めておくのがようございまする」
秀忠「今ので元気がなくなったわ」
家光「父上の神社を、どこに創建するかを相談いたしたく」
秀忠「……神社?」
家光「父上も死してのちは神になられるかと。大権現さまは日光ですから、父上は箱根あたりが程よきところかと、家光は思うておりまする」
秀忠「……わしは、神にはならぬ。仏でよい」
家光「なんと? では……普通に寺でご葬儀を行うということですか?」
秀忠「そうじゃ。徳川には、神はひとりでよい」
家光「そうなれば、大権現さまの霊験ますます高まりましょうが……本当によろしいのですか?」
秀忠「神になれば……その地にとどまり、関東を守ることとなる。そうであろう?」
家光「はい。大権現様が日光でなされているように」
秀忠「それでは――死んだのち、お江にあえぬ」
家光「…………はい?」
秀忠「神社と寺では……墓も、離れ離れになってしまう」
家光「……(唖然)」
秀忠「それでは、お江にも寂しいおもいをさせる……わしは、仏でよいのだ」

家光、しばらくあっけにとられる。
そして、合点がいったような風に、笑い始める。

家光「あっ……ははっ! あはははははは!」
秀忠「……さほどにおかしいか?」
家光「さにあらず……さにあらず」
秀忠「笑うておるではないか?」
家光「おかしいのではなく、うれしいのでございます」
秀忠「なに?」
家光「家光は――父上と母上の子であることが、うれしゅうござりまする」
秀忠「おかしなヤツよの」
家光「おかしくて結構でござる。委細、承り申した。なれど」
秀忠「ん?」
家光「まだまだ、息災でいてもらわねばこまりまする。家光は、まだ親孝行をしておりませぬ」
秀忠「あいわかった。では、苦い薬を飲むとしようか」
家光「だいぶぬるくなり申した。煎じ直させましょう」

生徒「なんだかんだ言って、このふたり仲がいいですよね」
先生「将軍と元将軍。同じ苦労をして、気持ちが通じ合っているのかもしれませんね」

■映像 高遠城

幸松の育ての親である、信州高遠藩主、保科正光が死の床についている。
正光は幸松を枕元に呼び寄せる。

幸松「父上……どうか、お楽に」
正光「よかったな、幸松」
幸松「はい?」
正光「駿河大納言様に……お目通りがかない、兄弟の名乗りができたこと。畏れ多くも、東照大権現さまの御遺品を頂いたこと」
幸松「いまだ、夢のようにござりまする」
正光「わしはの、将軍家からお呼びがかかるまでお主の元服をせずにいようと思っていたのだ。あるいは上様より、片諱でも賜るかもと思うておったゆえにな……」
幸松「……」
正光「わしが身罷ればそなたはこの高遠の主。直ちに元服し『正之』と名乗るがよい」
幸松「まさゆき……」
正光「『正』の字は保科家当主の片諱。これでそなたも――保科家の男子になったのお」
幸松「父上……!」
正光「あのあと、実はな。駿河大納言さまより、わしはお褒めのお言葉を賜ったのじゃ」

忠長「なんと清々しき若侍かな。これが我が弟とは、うれしくてかなわぬ。大変なことばかりだったであろうに、よくぞここまでまっすぐに育て上げてくれた。肥後守よ。この忠長、心底より礼を申す」

正光「うれしかった。大坂の陣で手柄をたて、上様よりお褒めの言葉を賜ったときよりも……そなたが大納言さまに認められたということが――我が息子が認められたということが」
幸松「父上……」
正光「保科の家のこと……まかせたぞ、正之」
幸松「はい――父上」

生徒「お父さん良いひとだったのに……コウくん、辛いですね」
先生「育ての親を失った幸松改め正之ですが、実の父である秀忠もいよいよ具合が悪くなり、床についていることも多くなりました」
生徒「えぇ……こっちのお父さんも?」
先生「そんな秀忠のところへ、家光がお見舞いに訪れました」

■映像 西の丸

秀忠居室。
起き上がり、縁側から外を眺めている秀忠。
家光、上機嫌に入ってくる。

家光「父上には健やかなるご様子、祝着至極でござりまする」
秀忠「今日はなかなか良いかげんじゃの。茶でもたてるか?」
家光「その前に、引き合わせたきものがおりまする」
秀忠「わしにか?」
家光「はい。さあ!」

家光に声をかけられ、正之は秀忠の前に進む。
わけがわからず、家光の方を見る秀忠。
家光は知らぬ顔で控えている。
そのまま平伏している正之に、秀忠は声をかける。

秀忠「苦しゅうない。おもてをあげよ」
正之「……は」

秀忠と正之、互いに顔を合わせる。
緊張の面持ちの正之、なんだかわからない様子の秀忠。
正之、意を決したかのようにはっきりとした口調で挨拶をはじめる。

正之「御拝謁の栄に浴し、恐懼し慶び奉りまする。信州高遠藩主――保科正之でござりまする」

秀忠、その挨拶を聞いて大きく目を見開く。

秀忠「たかとう……と、申したか? 保科と……ほしなと申したか!?」
正之「は――」
秀忠「いえみつ……? こは……こは?」

狼狽する秀忠。
家光、その様子を見てしれっと一言だけ補足する。

家光「――幸松でござりまする」

へなへな、と。その場に崩れ落ちる秀忠。
家光、楽しそうに秀忠を見る。

家光「父上」
秀忠「あ?」
家光「ようやく――親孝行がかないました」

秀忠、なが~い溜息。

秀忠「お主は……なんという……」
家光「『孝行息子じゃ!』――で、ござりまするか?」
秀忠「……たわけを、申すな」

苦笑しながら、秀忠は正之に向き直る。

秀忠「正之と申したな」
正之「は!」
秀忠「覚えてはおるまいが……産まれたばかりのとき、そなたとあっておるのだぞ」

秀忠、言ってから苦笑する。

秀忠「覚えて居ようはずがないの。そなたは気持ちよさそうに寝ておったわ……ハハハ」
正之「覚えてはおりませぬが――母から聞いておりました」
秀忠「……母は、息災か?」
正之「おかげさまをもちまして。高遠でつつがなく暮らしておりまする」
秀忠「そうか……母にもそなたにも……」

秀忠、何か言おうとして言葉を詰まらせる。

秀忠「正之」
正之「は」
秀忠「わしはもはや老い先短き身の上。そなたのことは、将軍がきっと……良く、とりはからってくれようぞ」
正之「ははッ!」

先生「正之と秀忠――これが最後の対面となりました」
生徒「あ……それじゃあ」
先生「二代将軍、徳川秀忠。寛永9年1月24日――薨去」
先生「父・家康が遺した徳川幕府の足場固めをした、守成の君主として名を残しました」

秀忠、立ち去ろうとするが、そこにお江が現れる。
お江に気が付き目を丸くする秀忠。
秀忠にお江は微笑みかけ、手を差し伸べる。
秀忠、その手を取る。
(以後の秀忠とお江のセリフは発語せず、唇の動きのみで表現)

秀忠「……あいたかったぞ」
お江「これよりは、幾久しく……殿のおそばにおりまする」

お江に手を引かれ、舞台を後にする秀忠。

■映像 秀忠・お江の墓

先生「今は、徳川家菩提寺の増上寺で――お江の方と一緒のお墓に入り、安らかに眠っています」

■映像 江戸城 本丸

SE 足音(複数)

先生「秀忠薨去発表の日。御三家以下、多くの大名が江戸城に登城しました」

利勝「大御所様が御不例。養生叶わせられず、薨去遊ばせられた。これにより、今日より鳴物普請御停止《なりもの・ふしん・ごちょうじ》になり候。相触れ候迄は堅く相慎むべき事、申し通すべく候なり」
一同「ははっ……!」
旗本「――上様、お成り遊ばされます」

SE 平伏の衣擦れ

家光「面を上げられよ」

SE 衣擦れ

家光「家光である。こたびは、わが父の逝去に際してのお心遣い、心底より御礼申し上げる」
  「余の祖父や父は諸侯らと共に馬を並べ、戦場《いくさば》を駆け、そして関ヶ原で勝ち、ついに将軍の座を得るに至った」
  「だが、余は――生まれながらにして、将軍である!」
  「戦場にも出ず、ただ生まれのみの将軍に異を唱えるものもいるであろう。余を打ち倒し天下を取ろうと望むものは、遠慮なくそれを試みよ!」
  「その折りには、この家光。旗本八万騎をもって――存分にお相手申し上げなん!」

先生「家光が成人したころには、戦はなくなっていました――そして、この場にはいわゆる『戦国大名』が多数います」
生徒「お父さんやお爺さんには負けたけど、みっちゃんに負けた訳じゃない……と、いうことですか?」
先生「納得がいかなければ、名乗り出るひともいそうですが……」

政宗「おそれながら、言上つかまつる!(大音声)」

先生「早速、出ましたね」
生徒「もう、おじいちゃんじゃないですか! 傷だらけで、目も片方……」
先生「きっと、歴戦の戦国武将ですね。強そうです」
生徒「……大丈夫かな?」

政宗「御前に侍りまするは、奥州仙台藩――伊達政宗にござりまする」

政宗、周りをジロリと睥睨する。

政宗「天下万民見回して、徳川三代のご恩を受けぬものが――果たしておりましょうや?」
  「万が一《まんがいつ》――そのご恩を忘れ、上様に対し謀反を企てるものあらば……そのような不届き者に御旗本の手を煩わすこともございませぬ」
  「誰彼《たれかれ》といわず、先陣はこの政宗にお任せあれかし!」
  「されば、老骨最後のご奉公。謀反人どもをことごとく討ち果たし――その素ッ首、上様の御前に並べて御覧に入れましょうぞ!」

政宗、そこまで言うと一座を見回し不敵な笑みを浮かべる。

政宗「おのおのがた……戦国にその名も轟く『独眼竜』の首を取り、天下を手に入れるまたとない機会でござるぞ? その気がおありなら、即刻名乗り出られるがよろしかろう」
政宗「さァ……出会い候らえ!」

生徒「誰もでてきませんね……」
先生「なにせ『ここで一番出てきそうなヤツ』の筆頭が、伊達政宗ですからね」
生徒「そうなんだ!?」
先生「これは諸説ありますが……先生の私見としては――このときこそが『戦国時代が終わった瞬間』だと考えています」
生徒「え?」
先生「『戦を全くしたことがない将軍が跡を継ぐことを、戦国大名たちが認める』――だれもがみな将軍家に、幕府に従った瞬間です。もう、誰も戦をするつもりがないし、そのメリットもなくなったのでしょう」
生徒「これからは太平の世になるだろうって、忠隣オジサンも言ってました……本当にそうなったんだ」

――抜粋おしまい